社長コラム
社長コラム 2017
- ■第61回(12月22日)『がんを切らずに済ます』
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前回,当社開発中のテロメライシンの開発コンセプトである「がんを切らずに治す」ということをコラムで説明させていただきました。
4人に1人が65歳以上という高齢化社会を目前に,日本の医療費は高騰を続けています。特にがんは死亡原因第一位となり,今後もその治療体系に関しては大きな社会問題になってゆきます。そのような状況のもと,当社のテロメライシンは,まず食道がんを狙い,初期の状態であれば侵襲性のない放射線治療と組み合わせることにより,切らずに食道がんを根治できる可能性が出てきました。
さて,がんを切らずに「済ます」ということです。何が「治す」と違うかと言えば,必ずしもがんは消えなくてもいい,ということです。未来のがん治療を考えたとき,がんは必ずしも無理して消さなくてもいいのではないか,と考えています。がん化学療法の歴史は薬の副作用との戦いの歴史でもありました。がんを小さくするために非常に細胞毒性の強い化合物を投与するために,吐き気,脱毛,神経障害あるいは臓器障害が高頻度に発生しました。
このような状況を顧みて,現在では分子標的治療や免疫療法といった新しいがん治療が主流になってきました。これらの治療の目的は「がんを消す」というよりも,「がんは消えないけれども生存時間を延長させることができる治療法」として位置づけられています。つまり,昔のように必ずしもがんの大きさで薬の効果判定をしなくなってきています。しかし,一部の薬剤では治療費が非常に高かったり,長期間の治療で重い副作用が出てきたりしています。
では,この先の治療はどうなるのでしょうか?私が考えるには,がんががんでなくなればいいのではないかということです。容易なことではありませんが,新しい遺伝子編集の技術を使ったり,新しいメカニズムによってがん細胞からがんの性質をとことんなくしてしまえば,がんは体の中で「たんこぶ」のようなものになってしまいます。それが神経を圧迫していたり,臓器機能を阻害していなければ「たんこぶ」のまま放っておけばいいわけです。「がんを切らずに済ます」とはこのような治療法だと考えています。当社はいま何人かの研究者と「がんを切らずに済ます」コンセプトを実現できるかどうかを模索しています。
- ■第60回(11月27日)『がんを切らずに治す』
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いよいよ今年も年の瀬が近づいてきました。当社でも来年以降の中期経営計画を立て始めています。その際に経営者として非常に気遣うことがあります。それは,会社のビジョンやコンセプトをどれだけ単純な言葉に集約させ,社員の気持ちにも浸透させるかです。勿論,それは株主の皆様とも共有できる言葉であるべきだと思っています。
当社のビジョンは,今更ですが「未来のがん治療にパワーを与えよう(Powering Future Oncotherapy)」というものです。月並みな言葉に聞こえるかもしれませんが,14年前に起業するとき,信頼していた親類を2人も肝臓がんで亡くした時に心に刻んだ言葉です。化学療法の副作用が強く,その割には効果はありませんでした。そんな経験から生まれてきた言葉です。私たちが開発しているテロメライシンが,医学や薬学の教科書に将来載り,その業績が後々の世まで語り継がれていってこそ価値のあるものになるのではないかと思います。
私たちが精力を傾けて開発をしているテロメライシンの開発コンセプトは,これまでは「風邪のウイルスががんを殺す」というものでした。しかし,最近の臨床試験の状況を考え合わせると,もっと具体的な言葉で,しかも単純な言葉で表現できるのではないかと考えました。そこで出てきたのが「がんを切らずに治す」というコンセプトです。
いま国内でテロメライシンは食道がんを中心に開発が進められています。しかし,すべての食道がんの患者様に適用できるような治験計画にはなっていません。私たちが対象としているのは,高齢などで長時間の手術に耐えられない方や,臓器に障害があって化学療法が受けられないような方を対象として,放射線療法併用でのテロメライシンの使用を考えています。
勿論,どんな方でも(恐らくは)手術を受けるのは嫌なものです。長時間,心臓や肺がむき出しになって手術が行われる食道がんの手術は,思うだけでも避けたくなります。私たちはこれから,食道がんで手術を受けなくても治せる患者様をどれだけ増やしてゆけるか,そこに挑戦してゆきたいと考えています。
しかし,私たちは更に次のステージに向かって次世代ウイルスを考えています。それは「がんを切らずに治す」から「がんを切らずに済ませる」という次元に向かおうとしています。その内容は,次回お話しさせていただきます。
- ■第59回(10月19日)『BioJapan2017』
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先週,10月11日から13日まで,横浜パシフィコでアジア最大級のバイオ見本市「BioJapan2017」が開催されました。世界33カ国から、海外332社を含め1,000社近い数の製薬企業やバイオ企業、研究機関などが参加し,連日多くの業界関係者が来場されました。今回,当社はがん検査ウイルスのテロメスキャンを中心にポスター展示を行いました。この期間中には多くの企業関係者や研究機関の方々がブースにお越しになり,当社神戸検査センターの研究員が直に来訪者への説明を行いました。
特に関心を持たれたのは,がん患者様の治療方針の決め手となるがん組織の「生検(せいけん)」が出来ないような場合に,当社のテロメスキャン技術が使えないかというものでした。当社の検査システムでは,癌患者様の血液の試験管1本分の血液から,ごくわずかに存在している「生きている」浮遊癌細胞を見つけて,それを回収することができます。それが出来れば,患者様の「生検」サンプルを採取することなく,血液を採るだけでがん細胞の遺伝子検査が可能になります。これを「リキッドバイオプシー(液性生検)」といい,今後の臨床応用が期待されている方法です。今回のBioJapanでのコミュニケーションを通じて,当社はテロメスキャンの臨床応用を今後益々広めてゆきたいと考えています。
- ■第58回(7月19日)『第1例目投与(FPI)の意味するもの』
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既にお知らせしました通り,7月8日から岡山大学病院で実施されているテロメライシンの食道癌PhaseⅠ臨床試験において,第1例目の食道がん患者様への投与が開始されました。今回の治験は,手術や化学療法などの標準的治療ができないような食道がん患者に対して,6週間の放射線治療の間にテロメライシンを2週間おきに3回投与する,というものです。いよいよ日本においてもテロメライシンの本格的な治験が開始されました。
実は,テロメライシンは2006年から2007年にかけてアメリカ合衆国の食品医薬品局(FDA)の承認を受け,既存治療に奏功しなかった様々な固形癌患者に対して,テロメライシンの安全性を評価するPhaseⅠ臨床試験をすでに完了させていました。その後,当社の資金難などでPhaseⅡ臨床試験への移行は見送られてきましたが,その間には台湾と韓国において肝細胞がんを対象としたPhaseⅠ臨床試験は続けられていました。そして今回の日本での食道癌PhaseⅠ臨床試験が始まるのです。
何故何回もPhaseⅠ臨床試験をするのか,疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。それは次のような理由からです。
2006年から実施したアメリカでのPhaseⅠでは,主に皮膚がん,乳がんあるいは頭頚部がんといったがんの局所に注射しやすい症例に対してテロメライシンの投与が行われました。続いて実施された肝細胞がんのPhaseⅠでは,長い注射針を用いてECHO画像を見ながらお腹の皮膚から肝臓の腫瘍部位まで直接注射をして,その場合のテロメライシンの安全性を確認することを目的としました。そして今回は,内視鏡を通して消化管の中のがん組織に直接テロメライシンを注射するという初めての試みになりました。つまり,テロメライシンが消化管の中に漏れたような場合に,本当に安全かどうかは分からない,というPMDAからの指示のもとに計画された試験なのです。既に岡山大学病院では,医師主導の「臨床研究試験」で食道がん患者10例に投与は終わっています。しかし,医師主導の「臨床研究試験」は企業が実施する「治験」とは別の物という厚生労働省の解釈により,今回新たにオンコリス主導でのPhaseⅠを実施することになったわけです。
当社はこのPhaseⅠ臨床試験を2016年初頭から計画をし,2016年5月13日にPMDAに対してカルタヘナ申請を行いました。その時点では治験届(申請)が2016年9月にも可能ではないかとの見通しがありました。ところが,その後も何度もPMDAや厚生労働省からの照会事項が続き,最終的に治験届の提出が受理されたのが,明けて2017年3月14日になりました。
まだ日本においてはテロメライシンのような遺伝子改変DNAを有する医薬品開発の審査体制は,アメリカに比較して不慣れな面もあり,予想より大幅に時間がかかってしまいました。アメリカではすでに100を超える腫瘍溶解ウイルスの臨床試験が実施されている現状とは大きな違いです。しかし,時間はかかりましたが、それはある意味ではPMDAとのより深い相互理解にもつながったという良い面もあるのでしょう。
今後その遅れを取り戻すべく,7月15日には岡山大学医学部消化器腫瘍外科およびその関連病院の医師が集まり,症例のエントリーをより円滑にするためのキックオフミーティングが実施されました。食道がんの新しい治療法を開発しようという臨床医の強い意志を感じることが出来ました。「食道がんを切らずに治す」という時代が来るよう、これからも最善の努力を傾けてゆきたいと思います。
- ■第57回(6月26日)『第23回抗悪性腫瘍薬開発フォーラムにて』
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6月24日(土曜)にがん研有明病院で行われた第23回抗悪性腫瘍薬開発フォーラムで講演を依頼され、参加してきました。総勢200名ほどの参加者のうち多くが製薬企業のがん領域臨床開発関係の人たちで、数十名の医療関係者や研究者も参加していました。午後1時から6時まで、革新的がん治療の開発戦略と今後の展望について、立場や企業の壁を越えた熱いディスカッションが繰り広げられました。その中でも腫瘍溶解ウイルス療法は、医療現場や製薬企業からも大きな関心を持たれており、国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科長の山﨑直也先生がヘルペスウイルスの講演を、そして私がテロメライシンの講演をしました。
いま「免疫」を利用したがんの最新治療法の開発は世界中で大いに盛り上がっています。当社のテロメライシンは、局所のがんを破壊するだけではなく、テロメライシンによって破壊されたががん細胞のシグナルが、周辺に集まってきた樹状細胞に認識され、さらにそのシグナルが全身のリンパ球に伝達されて、転移がんも含めた「全身のがん」に効果がある可能性が、これまでの臨床試験で示唆されています。
そこで、当社が考えている次世代のテロメライシンは、このようながん免疫活性化をさらに強力にするために、テロメライシンの遺伝子の中に「リンパ球を直接活性化できる遺伝子」を搭載することにしました。さらに、局所注射ではなく、点滴注射ができるように構造を変えることにしました。これらによって次世代テロメライシンは、より強力に抗がん活性を示すとともに、より簡単に投与できるようになります。また、いま世界で最も注目されている「がんチェックポイント阻害剤」との併用で、より高い臨床効果を示すことが期待できます。
たまたま前日にフリーアナウンサー小林麻央さんの訃報が伝えられました。恐らくは最善の治療を受けられたにも関わらず34歳という若さで亡くなられたことに、がん治療薬を開発するベンチャー企業として、その無力感を隠し切れない思いになりました。この気持ちは日々がん治療に携わっている多くの医師の方々も同じだったと思います。しかし、この日本でも確実に、一歩一歩ではありますが、革新的ながん治療薬の開発は進んでいることをこのカンファレンスで実感しました。その実現のために臨床試験に携わる医師の方々も、製薬企業の方々も日々、骨身を削って努力していますが、それでもまだ努力を続けてゆかなければならない現実があるのです。
- ■第56回(4月19日)『日本初の遺伝子改変増殖型ウイルスの企業治験開始』
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桜の開花も程遠い3月半ば、春先にしては珍しい雷雨降りしきる中、テロメライシンの食道がんPhaseⅠ臨床試験の治験届をPMDA(医薬品医療機器総合機構)に提出してきました。そして先週4月12日に正式に日本国内での治験開始の許可が出ました。
PMDAに治験の事前相談をかけたのが2015年7月、遺伝子組み換え生物等の規制に関する届け出(カルタヘナ申請)を提出したのが2016年5月。思えば随分時間がかかってしまいました。どうしてこんなに時間を費やしてしまったのか、我々にも原因は分かりませんが、今回の治験届は、国産の遺伝子改変増殖型ウイルスの企業治験としては初めてのもので、外国産の遺伝子改変ウイルスを含めても2件目になると思います。それだけに、厚生労働省としても審査に力が入ったのではないかとも推察されます。
しかしながら、当社ではすでにアメリカ合衆国のFDA(食品医薬品局)に治験届(IND)を出し、ウイルスの製造、有効性試験、毒性試験、ウイルス分布試験などの詳細に関して承認を得たのちにアメリカでのPhaseⅠ試験を実施してきました。アメリカ合衆国はカルタヘナ議定書に批准していないために、治験審査もスムーズであり、ウイルスの投与も「外来受診」で行われるなど、日本の現状とは大きな開きがありました。その後も、韓国・台湾での肝臓がんを対象としたPhaseⅠ試験や、アメリカでの皮膚がん(メラノーマ)を対象としたPhaseⅡ試験の治験届に対してもFDAより実施の許可を得ています。当然、毎年FDAには年次報告(Annual Report)を提出し、試験の進捗やウイルスの品質や安定性の情報を報告しています。
このような状況にもかかわらず、日本での治験申請とその許可までこれほど時間がかかってしまいました。現在、岡山大学と国立がんセンター東病院で治験倫理委員会などの手続きが開始されています。遺伝子改変増殖型ウイルスの取り扱いに関しても各病院で詳細な対応が開始されています。今後、私たちはこの規制の壁を乗り越えて、迅速に治験を完了させてゆきたいと思います。
- ■第55回(1月1日)『新年のご挨拶』
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新年あけましておめでとうございます。
皆様にとりましても、輝かしい2017年の始まりになっておられますことを心よりお喜び申し上げます。昨年は我が国経済も、アメリカの大統領選挙、イギリスのEU離脱国民投票、フランス・ベルギーなどの度重なるテロ事件など海外の不確定要素に大きく左右されました。また、国内では大隅教授のノーベル医学生理学賞受賞など明るい話題もありましたが、熊本地震などの天災に加えて、東京五輪や豊洲移転問題など人災が相次いで発生しました。
このような状況の中、当社の2016年度の経営は「我慢」という状況に明け暮れてきました。各パイプラインにおいては、いくつもの研究開発の進捗がありましたが、新しい結果を得るにはもう少し時間が必要で、更なる前進が必要となってきています。またビジネスにおきましては、テロメライシンの中国企業Hengrui社へのライセンスは完了しましたが、それ以外のパイプラインは未だライセンスには至っていません。本年は、これまでの「我慢」が着実に「結果」に繋がるよう最善を尽くしたいと考えています。
まず医薬品事業におきましては、当社の主力パイプラインであるテロメライシンは「がんの局所療法」という概念を振り払い、新たに「がんのウイルス療法」として、転移がんを含めた全身治療に寄与する治療法としての開発を展開してゆきたいと考えています。アメリカではメラノーマ(皮膚がん)に対するPhase II臨床試験がいよいよ開始されます。また日本国内においても食道がんに対するPhase I試験が開始され、アジア地域におきましても肝臓がんに対するPhase I/II試験が続けられます。
検査事業におきましては、新たな検査プラットホームを立ち上げ、検査の効率化を図り、様々な癌のCTC(血液循環癌細胞)検査の臨床的意義を明らかにしてゆきたいと思います。また昨年より開始された(株)DNAチップ研究所との共同研究を進め、前立腺がん治療薬のコンパニオン診断技術の立ち上げを目指します。
2017年は、これら研究開発を更に進めていく一方、社内人財の育成を図るとともに経常的Cash Flowの創出を進めるべく、経営の舵取りを進めてまいります。また、その結果として、開発の進展による医薬品ライセンス契約の締結により、近い将来には単年黒字を実現すべく、全社で努力を続けてまいります。
いい薬を創る。私たちは、一つひとつの新薬開発が難病治療の進歩への確かな足跡となることを目指し、その開発にこれからも取り組んでまいります。
本年も、どうぞ倍旧のご指導、ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
2017年 元旦
代表取締役社長 浦田泰生